そしてヒゲ 脱毛に前向きになれる考え方

ある環境でもプラットホームの位置を覚えているかどうかをテストしました。
先のように、九〇秒聞泳がせて、それぞれの象限をどういうふうに探索するかを調べました。
すると、コントロールマウスの場合は、やはりプラットホームのあった象限に集中して探索します。
限られた目印用の物体で十分にプラントホームの位置の記憶、つまり空間記憶を呼びもどすことができたわけです。
数字はモリス水迷路の各象限)コントロールマウスはいろいろな目印を使って空間の記憶を獲得します。
いったん空間記憶を獲得すると、目印の物体がどんどんなくなっていって少ししか残っていないという状態でも、それを使って記憶の全体を思い出すことができることをしめしています。
これが記憶のパターンコンプリーションなのです。
一方、ノックアウトマウスは、目印の物体をはずしていくと集中して探すことをしなくなります。
すなわち、CA3野のNMDA受容体をノックアウトしたマウスは、パターンコンプリーション能力を喪失していることがわかったのです。
つまり、空間記憶は獲得できるのですが、その想起のためには、コントロールマウスにくらべて、より完全な目印のセットが必要であるといえます。
場所ニューロンの活性化に欠陥以上の実験で、理論家たちが長年提案していたにもかかわらず、実験的にその正しさが証明されずにいた問題に、いちおうの決着がついたことになります。
すなわち、可塑性の高いシナプスをもつ反回性経路で頻繁につながっているニューロンからなるCA3野は、パターンコンプリーション能力を通じて、連想記憶の想起に重要なはたらきをしているという結論が導かれたのです。
そのことから、ある空間記憶を想起するということは、休眠中の対応する一群の場所ニューロンを活性化することではないかと考えられます。
そこで、行動学的実験で証明したCA3野のNMDA受容体のパターンコンプリーションにおける役割を、場所ニューロンの活性化を指標にして、電気生理学的実験で確かめることにしました。
そのためには、前節で説明した多電極記録法を使うのが有効です。
まず、海馬のCAI野に多電極を打ち込んだCA3野NMDA受容体ノックアウトマウスを、目印の物体が豊富な空間に放して、場所ニューロンが正常に生成されるかどうかを調べました。
結果は、前節で見たCAI野NMDA受容体ノックアウトマウスの場合とは対照的に、まったく支障がないことが観察されました。
このことは、CA3野のNMDA受容体遺伝子をノックアウトしても、空間記憶は獲得できることをしめしています。
CA3野NMDA受容体ノックアウトマウスを、豊富な目印の物体に囲まれた空間に二〇分程度さらした後、対応する場所ニューロンを休眠させるために、一時間程度、住み慣れたオリで休ませます。
その後、もとの空間に戻してやると、場所ニューロン群がいっせいに、そして正常に活性化することが観察されました。
これは、モリス水迷路で目印物体をとりこわさないかぎり、その空間記憶を再生することができるという行勤学上の知見とうまく話かあっています。
いよいよ、パターンコンプリーション能力がないと記憶が想起できないという条件下で、つまり目印物体の多くをとりはずした状態で、場所ニューロンの活性化かおこるかどうかを検討しました。
結果は、cA3野NMDA受容体ノックアウトマウスでは、明らかに場所ニューロンの活性化に欠陥がありました。
これらの多電極記録法による一連の実験は、場所ニューロンという「空間記憶の内部表示」のレベルにおいても、cA3野のNMDA受容体がパターンコンプリーションに重要なはたらきをしていることをしめしました。
CA3野NMDA受容体ノックアウトマウスを使った一連の研究は、非常に基礎的なものではありますが、この先一〇年二〇年という期間を考慮に入れるならば、わたしたちの健康の増進や病気の診断や治療法の開発とまったく無関係ではありません。
たとえば、老年期にさしかかった人々はよく「近頃、物忘れがひどくなって」と言いますが、こういう嘆きは一部の心理学的研究でその正しさが確認されています。
また、老人性痴呆症の初期の段階でもっとも顕著にあらわれる記憶上の支障も、想起にかかわるものです。
記憶力とCA3野のNMDA受容体の密度のあいだに相関関係がある、という報告もあります。
いっそうの研究が必要ですが、わたしたちの発見から考えてみると、この場合の記憶力とは、記憶想起力に対応しているのかもしれません。
一朝一タでできることではありませんが、記憶想起のメカニズムの研究をおしすすめていけば、老人性痴呆症の早期発見法の開発や、老化や病気による記憶の減退を軽くする薬の開発につながることも考えられます。
一方、脳科学の研究法の開発という観点からみると、CAI野ノックアウトマウスとCA3野ノックアウトマウスを使った一連の研究は、第二世代ノックアウトマウス法が非常に有効なものであることを証明することになりました。
第二世代ノックアウト法といったのは、すべての細胞で特定の遺伝子をノックアウトする方法を第一世代ノックアウト法とよぶのに対して、CAI野錐体細胞やCA3野錐体細胞のように特定の細胞においてのみ遺伝子が欠損することを可能にするノ。
クアウト法のことです。
CAI野ノックアウトマウスでもCA3野ノックアウトマウスでも、同じNMDA受容体遺伝子が欠損しているのですが、NMDA受容体が記憶という認知機能において、それぞれ獲得と想起というまったく異なった機能に関与していることが証明されたのです。
つまり、同じ遺伝子とその産物であるたんぱく質でも、それがCAI野のネットワークではたらいているか、0A3野のネットワークではたらいているかによって、ちがう機能をもつということです。
世代ノックアウト法で研究をしようとしている脳科学者たちへの警鐘であると同時に、第二世代ノックアウト法が広く脳機能の研究に有効であることを示唆しています。
T先生はK大学では化学科でいらしたわけですが、なぜ分子生物学の道を選ばれたのでしょうか。
T大学三年の冬から、卒業研究で何をするか考えていたときに、たまたま分子生物学について説明してくれた先輩がいました。
その研究というのが、ワトソンとクリックのDNAの二重螺旋モデルの発見、ニーレンバーグの遺伝子の暗号を解読した実験、そしてジャコブとモノーのオペロン説についてでした。
そこでジャコブとモノーの論文を自分で読みだして、たいへんすばらしいと思いました。
しかも、分子生物学の研究は、分子を扱うから化学ともそれほどかけ離れていません。
生物学を取り入れた研究で、分子の研究であれば、実におもしろいのではないかと思ったのです。
わたしは古典的な生物学については、ほとんど何も知らなかったし、興味があったわけじゃありません。
子どものころにぺットを飼ったこともないし、生物に対する親近感はあまりなかったのです。
それで化学科の生化学講座の学生になったわけです。
そのころの生化学は酵素学がさかんで、わたしの入った研究室でも酵素を研究していました。
でも、わたしは酵素学には興味がなくて、わたしに分子生物学のことを説明してくれた研究生を手伝ったりしながら、分子生物学に役立ちそうな勉強を自分ですることにしました。

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